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東京高等裁判所 昭和36年(ネ)2824号 判決 1964年2月27日

控訴人 株式会社杉浦内事部

被控訴人 国

代理人 小林定人 外三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事  実(略)

理由

旧国税徴収法第十五条「滞納処分ヲ執行スルニ当リ滞納者財産ノ差押ヲ免レル為故意ニ其ノ財産ヲ譲渡シタル場合」とは国税徴収に関連する詐害行為の要件を定めたものであるが、財産譲渡以外の場合には同法に何等の規定がなかつたけれども、民法第四二四条の規定の準用があるものと解されていたのである。而して財産譲渡が同法の詐害行為に当る場合においても、詐害行為の適用については一般法の民法第四二四条の規定と同趣旨に解してこれに関する従前の定説的見解に従うべきであることは洵に控訴人の当審所論一、のとおりである。そして民法第四二四条について見れば、弁済資金に充てるために相当価格を以て自己の不動産を売却するのは、自己の財産権を正当に行使したものと認めるのが当然であつて、たとえ売却金を以て或特定の債権者のみに弁済し、これがため他の債権者が害せられることがあつても、支配的権能を有しない債権の性質上右売却行為は原則として詐害行為にはならないが、その売却行為が当初から他の債権者を害する意思に出たことを認むべき特別の事情がある場合は、結論は自ら異別に出るものというべきで、例えば債務者が特に或債権者と共謀し、他の債権者を害して或債権者のみに対する弁済資金に供する目的を以て自己の不動産を売却したような場合は、右の特別事情に該当するものとして、右不動産売却を以て詐害行為としなければならないし、旧国税徴収法第十五条の「………滞納者財産ノ差押ヲ免レル為故意ニ其ノ財産ヲ譲渡シタル場合」も亦右の特別事情がある場合としてこれを詐害行為の要件を充足するものたることを規定したと見るべきである。

右の見解を持して本件につき更に審究した結果、当裁判所も債務者江洋メリヤスの控訴人に対する本件不動産の売却は、債務者江洋メリヤスが滞納国税のため、主要財産たる本件不動産の差押を免れるため故意にこれを控訴人に譲渡したもの、控訴人もこの情を知つてこれを買受けたものと判断して、被控訴人の本訴請求を認容すべきものとした。そしてその理由は左に附加する外原判決がその理由において説示するところと同一であるから、ここにこれを引用する。

当審証人松原都喜雄の証言、当審における控訴会社代表者杉浦武一本人尋問の結果中右認定に副わない部分は、前記認定の資料(原審が事実認定に供した資料)に照してたやすく措信しえないところであり、他に右認定を妨げる当審における新たな証拠は存しない。

控訴人が当審において主張するところの二、並に三の(1)ないし(4)は、債務者江洋メリヤスが正当な弁済をした旨の原則的な立場を前提として立論されているが、冒頭に説示したとおり、当初から他の債権者を害する意思に出たと認むべき特別事情の存する場合は尚詐害行為の成立を認むべきところ、江洋メリヤスは徴税権者たる国からの差押を免れるため本件不動産を控訴人に売却したものであること前認定のとおりである以上右は冒頭に所謂特別の事情に該当するものというべきであり三の(4)については課税額が不当であることを認めるに足る的確な証拠はないのであるから控訴人の右主張は採用しがたい。

然らば被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。

仍て民事訴訟法第三八四条第九五条第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 谷本仙一郎 堀田繁勝 海老塚和衛)

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